いつの間にやら、期待のインディー枠から、フルプライスへ移行。その上、スマッシュヒットどころではない快挙*1を打ち立てた『天穂のサクナヒメ』のレビューです。
珍しくトロコンまでしっかり遊びました。実プレイ時間は40時間くらいかな。
概要・ジャンル
- 稲作シミュレーション
- 羽衣による2Dワイヤーアクション
- 探索と収集
上記の3つの要素が絡み合ったアクションRPGです。
探索と収集による武器のアップデートと、稲作によるパラメータアップによりサクナヒメを強くしていくレベルデザインになっています。
操作性はレスポンスよく、アクション面のストレスは無く非常に快適。必殺技となる武技や羽衣技、装備に付けるスキルにはカスタマイズ性があります。
ハクスラ要素はなく純粋に積み上げていくのみです。難易度はやり込み以外は優しめ。
全体的なゲームテンポは、2Dアクション戦闘になった(ライザより前の)アトリエをイメージすると近いです。
よかったところ
ストーリー・キャラ・ゲーム性の相乗効果◎
いやそれほとんど全部やん、っていうね。
そう全部です。
全部良かったけど、とりわけストーリーのデキが素晴らしかった。
で、そのストーリーの良さっていうのが、
キャラクターの魅力
稲作&探索によるゲーム性
という2つの要素によって積み上げられているんですよね。これが最高にエモい。
五里霧中の中で稲を作って、失敗して、ケンカして、何度も何度もアイテム収集の為にダンジョンを周回して、ご飯を食べて...。っていう日々のループの積み重ねがストーリーへの感情移入を底で支えているんですよ。
ここまでシステムがストーリーに見事に調和しているゲームは中々お目にかかれないレベルです。
またキャラクターの成長も押し付けがましくない最低限のセリフで提示されていて、ゲームプレイを通してプレイヤーが自分から感情移入していく作りになっています。
プレイ時間に対して決して多い量ではないのに、キャラクターの芯を見せる台詞回しが非常に上手く、文字は少ないのにグッとくる会話が非常に多かったです。
稲作にだけ収集させないバランス◯
稲作はかなりガチンコで期待以上に歯ごたえがあり楽しかったです。
手がかかる子ほど可愛いわけで、苦労して出来た新米のリザルト画面の達成感は他のゲームでは中々味わえない趣きがあります。
台風の中、田んぼを見に行ってしまうじいちゃんの気持ちが痛いほど分かります。
で、こういう作業ゲーってずーっと同じ事やってるとテンポとして飽きるので、作業を分断させる作りになっていることが多いんですよね。
分かりやすい例がアトリエシリーズですね。探索収集が必要だったりイベントが挟まったりで調合だけをし続ける事が難しい作りなんです。サクナヒメも田んぼ弄りばっかに集中させないように、肥料集めとして探索が必要に迫られるシステムになってます。
探索をしていると移動・帰宅時にイベントが強制的に挟まる形でシナリオが進行していく訳です。そして、その頻度が絶妙。
我が家に帰る度にペットが増えてゆく…。
アトリエシリーズの場合、「今じゃなくて後にしてくれんか」と思うことが非常に多かったです。というのはシナリオがつまらないっていうより記憶する事が多く、脳内タスクが切り替わるストレスが大きかったんです。その点ではサクナヒメの稲作は覚えるリソースの量が絶妙で、急なイベントが挟まってもストレスのないプレイ感でした。
あとは舞台が夢うつつの神の世界なので時間経過によるリアリズムを意識しにくかった点もプラスに働いていますね。
この進行形式でこんなにストレスなくシナリオが楽しめるのかと感心しました。
キャラクター◎
これに関してはいいところがたくさん。
ピックアップして3つを。
主要キャラみんなマイナスをがっつり描いてからのスタートなので王道っちゃ王道なんですが、マイナス面の描き方が結構踏み込んでいて記号的になっていないのがまず1つめ。
記号的じゃないといえば、ガサツでじゃじゃ馬なわがまま姫のサクナが、乙女な価値観を不意に覗かせるのも深みがあって良かったです。
簪や衣装に拘りがあったり、両親の馴れ初めエピソードに感動して涙を流したり(周りは軽く茶々入れながらキャッキャ言ってる空気感にも関わらず)...。ココロワとのエピソードやエンディングに効いてました。
2つめはキャラクターの成長がみんなで共同生活して積み上げていく生活に根ざしているので魅力に説得力がある点。これは上記で散々書いてきた所ですね。
そして3つめ。ヴィラン側の処理の仕方が本当に上手い。いわゆる古典的な鬼退治というフォーマットなのに記号的な悪役に陥っておらず、かといって甘々な展開にも陥っておらず、納得感のある決着ばかり。
中盤で怪我をした鬼を匿うという手垢に塗れた展開になるんですが、この展開の終着点が独特でサクナヒメ全体の価値観・温度感を象徴していると思いました。
全体にも言えますが、特に敵方のストーリーにどこか浮世離れした価値観が全体を包んでいるのも神話特有の面白さを見事に表現しています。
あと作り手目線の見方をすれば、敵は使い回しモデルがかなり多めなのにストーリーに無駄がないので、使い回しを感じさせない所も良くできているポイント。
微妙なところ
ややバグが多い△
ゲームプレイを損ねるレベルだとは思いませんが、敵の壁すり抜けやサクナのめり込みなどグリッチはそこそこ発生。
タイトル画面や一部の移動時にハングアップする事がまれによくある感じです。こまめなオートセーブ機能があるのでこちらも致命的な欠点になることは回避しています。
まあでもバグに関してはスタッフロールの短さを見れば何も言えねぇ。って気持ちが勝ります。
探索素材の検索性△
欲しい素材がどこにあるかを探すのに、マップの各ポイントにいちいちカーソルを合わせいく必要があるのでややテンポを悪くしている印象。マップから見れるだけ全然マシなんですが、欲を言えばアイテム図鑑的な機能があれば言うことなしでした。この点アトリエシリーズのノウハウは凄いです。
人間スペックかメモで対応しましょう。
マスクデータの多さと示唆の薄さ
マスクされているデータの多さが稲作の奥深さを表現している事は間違いないのです。それだけに隠されたパラメータの相関が理解できた時の喜びはひとしお。
なのでデータを開示するまでは必要ないですが、どの要素とどの要素が絡んでいるのかっていう示唆があればより良かったかなと思います。
ヒントが書かれた収集アイテムなどが難関ダンジョンのリワードとしてあれば良かったかも。
農書というチュートリアルアイテムはありますが、あくまでもスタートラインというレベルの内容です。稲包虫には実は防虫が効かないとか、蛙が多すぎると蜘蛛を食べちゃう、とかの例外っぽい動きは数字の動きでしか見えないんですよ。
もちろんその不透明性にリアリティがあり、魅力ではあるんです。ですが、仮説を立てて検証した人なら確信を持てる程度のヒントが、何かのリワードとして閲覧できれば更に能動的に稲作パラメータを検証する動機になったと思います。
水の入れ替えをしないとアオミドロが湧くとかめっちゃおもろいんですけど普通にプレイしてると中々お目に掛かれないです。そういうのあるんだって気づきにもなると思うのでもうちょいヒントは欲しかった。
ただしこれは攻略本が出れば解消される問題です。また攻略情報で盛り上がる要素でもあるし、あくまでゲーム単体で完結して楽しむケースに限った問題ですね。
まとめ 9.1/10 稲作の数だけ魅力を増すストーリー
正直言って、稲作にしか注目してなかったのでストーリーにこんなに心揺さぶられるとは予想してなかったです。
隅々までシステムが計算し尽くされていて無駄のない、よく出来たゲームでした。
お話としての質は今年のゲーム3本の指に入ってます。やって良かった...。
キャラの魅力は語り尽くせないですが、推しはもちろん頼れるギーグ、ココロワです。あかん感じの笑い方もかわいい。
*1:『天穂のサクナヒメ』世界累計出荷本数が50万本を突破 - ファミ通.com