本当に素晴らしい作品だったので極力ネタバレなし。かつ、これからプレイする人向けへのレビューです。
でも作品の性質上、ほんとは読まずに体験版をやってほしい。
ここ数年のアドベンチャーゲームでは圧倒的にトップレベル。
グラフィックが非常に美しく、ストーリーもロマン全部盛りという感じで、どこを取っても非常に贅沢。ゲームというより世界一贅沢なSF小説、というのが率直な印象です。
プレイ時間は40~50時間。
平均40h弱くらいかと思います。ゲームプレイで時間が掛かる訳ではないのでガンガン飛ばせば30h程度。音声をしっかり聞くと50h近くいきます。考察していくともっともっと。超ボリューム。
基本的なゲームシステム面については以前の記事で書いてあるので、それが実際どうだったか、という点をメインに書いていきます。
- 完璧に畳み切ったガジェットごった煮青春恋愛群像劇
- 温かみのあるグラフィックと豊富なアニメーション
- 爽快感に振り切ったバトルパート
- サウンドやUIの執念を感じる作りこみ
- まとめ 9.6/10(奇跡) SFが好きならやらずには死ねない
完璧に畳み切ったガジェットごった煮青春恋愛群像劇
ストーリーの出来ですが、エンディングまで見終わった途端、立ちあがって無言でスタンディングオベーションするレベル。
全てがネタバレになってしまうので具体的には何も言えないけど、この質と量の物語はゲームどころか小説でも中々ないレベル。
謎だらけの荒唐無稽な物語における大オチがはっきりある。これはご想像にお任せエンドでも、アーカイブに丸投げエンドでもない。作中における決着は全て着いていて、究明編はあくまで世界観の詳細設定や物語を深堀りしたい人へのやりこみ要素。
若干荒れそうなオチだと思ったものの、この落とし方でここまで無駄なく意味を持って綺麗に落とし込んだ物語を初めて見た。そういう意味で感動してしまった。
ストーリーパートとなる追想編でそれぞれのテーマとしてはしっかり閉じていて、ロボットバトルとなる崩壊編はあくまでも全体の収束に終始しているので、物語全体のクライマックスとしては盛り上がりはちょっと弱いとも思えるけれど、何かが足りないかというとそんなことは全くない。アーカイブを追えば追うほど味わいが増していく。
唯一気になるところとしてはセンターを張っていた鞍部十郎で、崩壊編での冷静な立ち振る舞いが魅力的だっただけに、もう少しだけ彼の覚醒を詳細に描写して欲しかった。もっと外連味をもって描いても良かったような気がする。
反面、もう一人のセンター、冬坂五百里の起動シーンのセリフが本当に素晴らしい。もうこのセリフだけでこのゲームの元は取れてる。
追想編は「どうしてロボットに乗り込んだか」の物語なので、ある意味でオチがはっきり決まっている。絶対にロボに乗る。それなのにカタルシスを感じられるのは、もちろんそこまでの各キャラクターのバックグランドを見て感情移入していて、満を辞してのタイミングで起動シーンが来る事が大きいだろう。でもそれに加えて、引用している数多の「お約束」へのリスペクトが、昭和コンテンツへのノスタルジーという重さを伴って伝わってくるからだと思う。知識がなくても伝わるSFへの愛がある。
もちろんそれらの元ネタへの造詣が深い人は、最後までずっと唸りながら楽しめるだろう。
温かみのあるグラフィックと豊富なアニメーション
フォトリアルではないが、温度感を感じさせるという意味でかなりリアリティのあるグラフィック群は、綺麗というだけでは終わらないレベルでグリグリ動く。
キャラクターの表情は多彩で感情が自然に伝わるし、背景の光の色彩は目に優しく、ずっと眺めていられる。
ここまでの箱庭を作るには異常な書き込みが必要なはずだが、それを意識させないくらい自然に世界が成立しているので没入感への貢献度は非常に高い。
実際に昭和の光景を知っている人にとっての、思い出補正のままの風景を再現したような美しさと郷愁を感じさせる。
爽快感に振り切ったバトルパート
本作のバトルはRTS(リアルタイムストラテジー)*1
いわゆるシミュレーションと呼ばれるターン制ストラテジーのリアルタイム版。ファイアーエムブレムやスパロボからマス目が撤廃され、アクティブタイムバトル(ATB)の様に時間経過で行動が回ってくるタイプと思ってもらえれば。
詰将棋的なパズルの楽しさから、アクション寄りに振られたジャンルがRTS。
今作のバトルは危機的な瀬戸際からの一日限りの最終決戦なので、リアルタイムで機兵を動かすことにより時間の重みが意識され、次々と大量の怪獣が押し寄せる脅威が目で見て伝わってくる。
ただリアルタイムとはいっても、自キャラの行動選択中は時が止まるので苦手な人でも安心してほしい。ATBのウェイトみたいな感じ。
見る人が見ればガンパレ*2のオマージュだという事は一目でわかると思うが、表現力とリアリティを天秤に掛けた折衷案の様な元ネタとは違って、記号的に簡略化されているグラフィックにもかかわらず解像度が高くリッチな見た目をしている。洗練されたUIの様な美しさがある。
そしてこのバトル、見た目からは想像しにくいかもしれないが爽快感が非常にある。
大量の小型ミサイルの雨や、超巨大ミサイルを敵の集団にぶち込んだ時、巨大で硬い敵を拳で殴り倒した時などの爽快感は中々のもの。サウンドの仕事も素晴らしい。音楽は緊迫感を訴えかけ続け、効果音は爽快感をブーストしてくれる。
RTSのゲームを好んでプレイする人からすれば、物量やビジュアル的に不足はあるかもしれないが、物語のシチュエーションを加味するとこれ以上は必要ないと思える。
単体のゲームだとやや物足りないが、アドベンチャーのオマケと括るにはあまりにも贅沢、という印象。
サウンドやUIの執念を感じる作りこみ
ベイシスケイプの音楽はとにかくケチをつける場所が見つからない。
ベイシスケイプらしいファンタジックな楽曲はグラフィックと非常にマッチしている。
ノスタルジーな空気を感じさせつつも洗練された音色のフィールド曲と、ロボットものの様式美を完全に把握した緊迫感と熱さのあるバトルBGMどちらも魅力的。
フィールド曲は主張しないのにキャッチ―なメロディーラインでアドベンチャーの劇伴としてこれ以上のお手本はない感じ。
バトルはそれ単体でプレイヤーを世界観に引き込むクオリティーで、簡素化された画面との行間をうまく演出している。
そしてボーカル曲の使いどころを“わかってる”選曲ディレクションが完璧。
細かい話になると、サウンドのエフェクトの処理がとにかく丁寧で、無線ボイスや、人のいない教室の反響などの場面によるエフェクト処理はもちろん、BGMを殺さないためのダッキング処理(ボイスをしゃべる時だけボリュームを下げる)も非常に細かく付けてある。
オートで回る一連のセリフも声優の演技の間を殺さないように非常に繊細に付けられているし、何処でボタンを押してもぶつ切り感が無いようにフェード処理されている。
主人公が喋っている裏でモブが会話することがあるが、どちらも音声がきちんと再生され、それどころか、再生タイミングの調節とサラウンド処理がされてどちらも聞き取りやすくなっている。挙句の果てにどちらもバックログにちゃんと残る。隙が全く無い。
その細かさははっきり言って異常。何かの執念を感じる。見た目に現れない部分なのでもっと評価されてほしい。
その作りこみの執念はUIからも感じ取ることが多かった。
このゲーム、操作性で不便や違和感を感じるポイントが本当に見当たらない。
このレベルでシンプルにアイコン化されたUIだと大抵必要な情報が足りない、という事態に陥りがちだけどこのゲームにはそれが無かった(一か所だけあったが*3)
没入感を阻害する要素が極限まで排除されている。
まとめ 9.6/10(奇跡) SFが好きならやらずには死ねない
・ ゲームとしても素晴らしいがSF小説だと思ってプレイすると本当に贅沢
・ 数多のSF小説・ロボットアニメ・お約束的ガジェットへのリスペクト
・ 13もの荒唐無稽な物語を紡いで破綻が無いのは驚異的
・アートワーク・サウンド・UI 全て職人的で狂気的な作りこみとセンスの暴力
・能動的にストーリーを読み解くことをゲームプレイの一つとした挑戦は成功している
結局のところストーリーの圧倒的なクオリティに頼って成り立っているつくりだけど、それ以外の作り込みの部分が非常にハイレベル。
ベテラン職人たちが作った伝統工芸品の様な作品。
センスにずっと殴られ続けるようなゲームだった。
複雑すぎるストーリーではあるものの、懇切丁寧に解説されるので、SFや考察が好きな人間にはスッと入ってくる内容。
いわゆる考察を究明編という形でゲームプレイに落とし込んだのは小説には決して真似出来ない偉業。このゲームはアドベンチャーゲームというより、凄く贅沢な作りをした小説として語られていくと思う。
反面、難解なストーリーが苦手な人にとっては、魅力的なキャラクターでも補えないくらい辛いかもしれない。
それでも最後の種明かしでは旅の終わりの感動はしっかり味わえると思う。
◆
値段が高いな~と思って迷ってるなら体験版だけでもやってみてほしいです。
特にバトルパートは触ってみないと爽快感を想像し辛いと思いますので。
発売延期なんかの事情もあっての値段だとは思うものの、価格に見合ったクオリティだと感じました。
合う合わないはあるにせよ、超上質なのは間違いないです。
SFが好きなら必ずやった方がいいと自信を持って言えます。
デスストもそうだけど、今年はプレイさせてくれてありがとう。と心の底から思える作品が多くて嬉しいです。文句なしに今までで最高のアドベンチャーゲームです。